大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和30年(ネ)455号 判決

控訴人 平沼政市

被控訴人 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び立証並びに書証の認否は、次に附加する外、原判決の事実摘示のとおりであるから、ここに引用する。

控訴代理人は、当審において抗弁として、仮りに控訴人が配炭公団又は国に対し本件債務を負担していたとしても、代金支払義務が発生した昭和二十四年七月二十六日より二年の時効期間の経過によつて消滅した。また配炭公団よりの債権譲渡通知をもつて本件債権の請求と見ても、同通知を受領した翌日である昭和二十六年三月八日より起算し同様二年の時効によつて消滅したと述べた。

〈証拠省略〉

理由

当裁判所は、消滅時効の抗弁については次に附加する理由によつて採用し得ず、その他は原判決の理由記載と同一の理由によつて、被控訴人の本訴請求は、原判決が認容した限度においてこれを認容すべきものと判断する。

右認定に牴触する当審証人岡本八郎の証言は措信しない。

その外右認定を左右するに足りる証拠がない。

次に、当審における控訴人主張の消滅時効の抗告について判断を示す。

配炭公団は、臨時物資需給調整法に基いて設置せられた公法人であつて、経済安定本部総務長官の定める割当計画及び配給手続に従つて石炭及びコークス等の適正な配給に関する業務を行うことを目的とし、経済安定本部総務長官の指示に基き主務大臣の監督の下に物価庁の定める価格により石炭、コークス等の一手買取及び一手売渡を業務内容とし、その役員はこれを官吏その他の政府職員とする(配炭公団法第一条第十四条第十五条参照)ことは関係法規に照し明白である。

然らば、同公団は国家機関というべく、固より営利を目的とするものでなく、その業務内容を企業と目することは許されず、営利的営業行為ということはできないので商人ではない。従つて同公団が売渡した売却代金は卸売商人及び小売商人が売却した商品の代金に該当しないことは自明であるから、民法第百七十三条の短期消滅時効を適用すべきでないと解する。公団の売却代金は所謂金銭の給付を目的とする国の権利に該当し、その時効は会計法第三十条に則り五年間これを行わないときに消滅するものというべきところ、本件について見るに、控訴人が配炭公団に対して代金支払義務が発生した日時に争のない昭和二十四年七月二十三日(第二回目の分は同月二十五日)より起算しその消滅時効期間内である昭和二十九年三月三十日本訴請求をなしたことが記録上明白である以上会計法に基く消滅時効にもかからないものとする。

控訴人の右抗弁は到底採用することができない。

よつて原判決は相当であるから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条に従つて主文のとおり判決する。

(裁判官 大友要助 水島亀松 吉田彰)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例